折り合いをつけているケース

この折り合いということを考えるときに、とても奥が深く一言では言えないのですが、具体的な忘れられない患者さんたちの話を書いてみたいと思います。

1:製造業の中堅社員。とても優秀でバリバリ働き、いつもその会社での評価が最高だった方。ある時に過労で体調を崩しうつ状態の診断で休みを取り、その後復帰して働いていました。その方の言葉です。「私は以前仕事オンリーで働いてA評価の上のS評価をもらっていました。でも休んでみたら、家族がいかに自分を支えてくれていたのかがわかり、それなのに自分は家族のためにお給料を持ってくること以外何もしてこなかったことに気づきました。私はこれではいけないと思い、今では子供の世話や家事の手伝いなどもするようになったのです。今のところ私の評価は最低のEです。でも今のところ私はこれで良いと思っているんです。」

2:中年の男性。サービス業。ちょっとした人間関係のストレスがあり体調を崩して休業して、その後転職をして働いていました。時々外来に来られる方で、いろいろ会話をしていく中でこんな言葉がありました。「私はこれまで働いてきて一度でも仕事が面白いとか楽しいと思ったことはありません。私は家族のために働いているのです。しっかりとお給料がいただければ仕事に要望はありません。なんでもやります。満足はプライベートなので、私は仕事がつらかったり楽しくなくても大丈夫です。」実際にこの方は実に良く働く方でした。

3:製造業の男性。「転職をして現在の仕事内容はそこそこで、同僚との関係は悪くありません。ただ一点、社長の考え方とは合いません。朝礼などをすると違うなと感じるのです。でも自分の生活もあるし、毎日社長と議論をするわけではないので何とかこんなものかなと思って休まずに仕事しています。」

4:勤労者ではなくずっと前に経験した中学生の話です。担任の先生も友人ともうまくやれているし学校は好きなのに登校することができずにいました。その彼はあるときから毎日学校に行くようになったのです。その時のことを彼はこう語っていました。「僕はずっと学校は好きだと言っていましたが、実は担任の先生はあまり好きではなく、同級生もそんなに親しいわけではないのです。それでよく考えてみたら自分は学校が嫌いなのだということがわかりました。でも僕は高校には進学したいのです。このまま休むと勉強がわからなくなって高校に進学できなくなってしまうのは困るのです。それで勉強するために学校に行くことにしました。あとは大丈夫です。」実際にその後彼は毎日登校するようになりました。この話は外来でも患者さんにお話をしています。本当に折り合いをつける見本のようなケースでした。

もちろん、仕事や学校が楽しくて、面白くてという方もたくさんおられるはずです。しかし、皆さん全員がそうでもないのですね。でも、上司や同僚と会わないから辞めるしかない、仕事が合わないから辞める、と限ったことでもないのです。ここが折り合いです。今は上司や同僚と会わないけれどもほかの部署には友人ができた。会社は大きいからそのうちに上司も変わってメンバーも変わるのではないか、と考えて仕事を継続してよいわけです。

何やら、コロナのために外出は自粛してください、でも家の中ばかりでは苦しい。飲食店も困るよね、ではどうする?というのもある意味では折り合いの問題です。そこそこ、ほどほどに押したり引いたりしながら、まずまずなんとか暮らしていますよ、という感じこそが大事なのかと思われます。自分なりの折り合いをつけながらこの難しい時代を乗り切っていきたいものです。

東谷心療内科
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