迷ったときは現状維持

外来にはたくさんの患者さんが来られます。新しく受診される方の多くは仕事をしている若い方です。そこでかなりの割合で話題になるのが、退職するかそのまま働くかという悩みです。

一般的に、初診時に退職を考えているとおっしゃる方の場合、その後の経過を見ているとざっくりと7-8割の方は復職されます。その中には、異動や職位の変更をして復職される場合を含みます。残りの2-3割の方が退職、転職をしていかれます。

辞める方の多くは迷いがない状態です。つまり、晴れ晴れとした表情でしっかりと「退職することにしました」とおっしゃられます。辞める気持ちと継続勤務する気持ちの割合は、9:1,あるいは8:2という感じです。一方で、退職は全く考えずに復職されていく方もたくさんおられます。

問題はその間の方です。つまり辞める・辞めたい気持ちが5から6くらい、同じ職場で勤務する気持ちが4から5、ですのでやめる辞めないを5:5とか6:4くらいで悩んでいる方です。時間をかけて話をして、家族とも友人とも、上司とも相談をしても決められない、という場合があります。ご本人は「どうしても決められなくてだめですね」という言い方をされます。その時に私が必ずと言ってよいほど返す言葉は「迷ったときは現状維持が良いのです」。

背景としては、迷った末に辞めてしまった方が「なんでやめてしまったのか」「そのまま会社に残ればよかった」という言葉をたくさん聞いてきたという経験があります。会社に在籍している間はどうしてもマイナスというか会社の嫌な面が目立ってしまいます。それがいざ会社を離れてみると、今まで見えなかった良い面が見えるようになるのですね。

辞めることを全く考えないで復職される方はそれでよいのです。またすっきりとした表情で明確に退職を希望される方も同様です。しかしそのどちらでもなく、悶々と決められずに悩んでいる場合には、現在の職場に戻られることを第一に考えると良いと言えます。

仕事をやめる、降格して勤務する、異動させてもらって勤務する、同じ職場で勤務する、という選択肢があってどうしても自分で決断できないときはまず現状のまま復職してよいのです。復職してからまた考えればよいのです。そのほうがリスクが少ないと確信しています。

そんなことをしているうちに、何か機が熟して決断できる日が来るかもしれません。来ないかもしれません。それでよいのだと思います。

東谷心療内科
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