診察室から見える12か月
早いもので新年度になりました。皆さん慌しい毎日をお過ごしのことと存じます。今日は診察室から見える季節の風景についてお話をいたします。
まずは気候の変化の話です。昔から精神科・心療内科が一番忙しいのが春であると言われています。実際に仕事や生活環境が何も変化がないのに、この時期になると不安が強くなり落ち着かなくなり、気分が悪い、気分が落ちこむ、などを自覚される方が多いです。明らかに気候の変動が影響しているのです。外来ではよくエアコンに例えたこんな話をいたします。冬はエアコンの設定がずっと暖房であり、オンオフ以外に細かい調整は必要ありません。人間の体温や血圧を調整す機能を果たすのが自律神経です。その設定はウィンターバージョンと言えます。一方で真夏になるとずっと冷房ですね、こちらサマーバージョンで安定していると言えます。ところが春は三寒四温というように、朝は暖房、昼は暖房の設定が変化したり不要になったり、時には冷房になったりします。つまり自律神経がとても忙しくなり、オンオフを繰り返したり設定温度が微妙に変化したりするわけです。この時期には体調や気分も変動しやすくなります。同じことは秋にも起こります。ちょっと違うのは、春はどちらかというとソワソワ落ち着かない感じになることが多く、秋はやはり気分が沈んでくるという訴えが多くなります。興味深いのは、診察室においては〇月〇日から春が始まるというように、始まりがはっきり分かるのです。今年は2月26日に春が始まりました。秋は9月の中順から下旬のある日から始まります。自律神経が不安定になると人間の感情も引きづられるように落ち着かなくなるのです。
この春と秋の不安定期のほかに、6月の梅雨の季節に調子が悪いと訴える方も結構たくさんおられます。患者さんにおいては、毎年春が悪い方、秋が悪い方、6月が悪い方というようにある程度個性があり、苦手な季節が存在します。6月は雨が多い季節ですので主に気圧の変化なのでしょうか。
次に環境の変化のお話です。4月に進学、就職、異動、昇進、転居などの生活環境の変化が起こり、それに慣れる過程で心身の疲労が蓄積してきます。5月病というのは春に変化の後に頑張って生活をして、疲れが出始めるのが2か月後からなのです。これは誰でも起こります。程度が強いと適応障害という診断がつくことになります。今は、4月だけでなく、7月、10月などに異動されることも多くなりましたので、細かく見ると毎月のように職場環境が変化しています。以前は上記に書いたように春がメンタルの調子を崩しやすい時期と言われておりましたが、現在では生活の変化に引き続く不調の方が年間を通してこられます。春の変化の後、なかなか仕事や環境に慣れることができずに疲れがたまるのが夏から秋頃になります。また一般的に職場は11月12月には猛烈に忙しくなることが多いので、それに付随して体調が変化することも多いのです。
ですから今のメンタルクリニックの外来は3月からずっと混み合います。年間を通してみると一番落ち着いているのが1月2月でしょうか。気温が低めに安定して経過して、比較的人事異動もすくなく、体調が少々悪くてもあと少しで年度末だという希望が見えているのかもしれません。
こんな風に、診察室から見ると皆さんがとても良いと思われている春と秋は要注意の時期であり、夏も疲労がたまりやすい時期であると言えます。冬が比較的落ち着いているものの、今度は秋から春までの間に体調が悪くなるという季節性の気分の変動の方が来られるということになります。診察室から見ても、なかなかのんびり生活することが難しい世の中になっているようです。