迷ったときの続き
前回は「迷ったときは現状維持」という話を書きました。その続きとして、一人で行き詰っている時のもう一つのコツについてお話をいたします。仕事をやめるかどうかに関して悩んでいる方の場合、現在の仕事を継続するという選択肢しかない方が実は多いのです。辞めるかどうか悩んでいるのではなく、辞めることを考えないで悩んでいると言えます。
診察をしていて、ずっと会社に対する不満、上司に対する愚痴、会社の制度に対するストレスの言葉が続くことが少なくありません。そんな時に「今後どうするかの選択肢に、退職するということを入れて考えましょう」と伝えることがあります。辞めることは考えていないけれども会社にはストレスがあって、という流れになると次第にご本人が追いつめられるというか苦しくなってしまうのです。常に「辞める」という選択肢を意識しておくことで、視野が狭まらずに妙な力みなく考えられるように思っています。実際に「会社を辞めてもいいんだと考えられるようになって気が楽になった」と言って復職される方は少なくありません。
話は変わりますが、ご夫婦の問題で悩まれている方でも同じ考え方が当てはまります。どう考えてもうまくいかないようだな、苦しそうだなと感じられた時に「どうして離婚を考えないのですか」とお伝えすると驚かれる方が多いです。それでもその後の会話が微妙に違ってきて、ご本人は冷静に考えられるようになっていくように感じます。これしかないというオンリーワンの考えの先は苦しいのです。選択肢は最低ふたつ、できれば3つあると良いです。仕事をやめる、続ける、部署異動する、あるいは、離婚する、別居して少し離れてみる、まずは現状維持で継続する、などですね。このように可能性は3つくらいあるけれどもどうしても決められない、という場合は前回お伝えしたように現状維持が良いのです。
世の中は、白黒思考、ゼロか100、などの明確に割り切れる思考が良い、優れていると思っている方が結構多いように感じます。前回からの「迷ったとき」の考えは、白と黒の間にグレーを入れて3色にする。あるいはゼロと100の間に、30とか60とかの中間を入れてみる、というような考え方になります。外来診療ではこんなグレーな発想ができる、いくつかの選択肢を自分でつくれるというパワーはとても大事なポイントであると考えています。