過剰適応ということ

いつの間にか前回のブログから1年以上経過してしまいました。こんなことにも波がありますね。実はこれまでのブログを集めて本にできないかと検討をしているところです。できましたらご案内いたします。

さて最近の外来では、タイトルにある過剰適応の話をすることが本当に増えました。以前のブログで適応障害のお話をしました。「日常生活の中で、何かのストレスが原因となって心身のバランスが崩れて社会生活に支障が生じたもの。原因が明確でそれに対して過剰な反応が起こった状態をいう。生活の変化から3か月以内に症状が出現し、ストレスがなくなると6か月以上続くことはない」というものです。この場合、皆さんのイメージとしては不適応、つまりは仕事がうまくできない、人間関係になじめない、ミスが多い、などを思い浮かべる方が多いのではないのでしょうか。確かにそういうケースはたくさんある一方で、実は一見すると仕事はうまくやれていて、順調に経過しているように見えている方に適応障害の症状が出ることが少なくありません。ほかの方よりも仕事をたくさん担当し、そのために疲労をしてしまっています。真面目で働き者、几帳面でいやと言えないなどの共通点があります。つまりは仕事をやりすぎて疲れてしまっているわけです。適応ができていないのではなく、過剰に適応をしている状態であるという表現になります。

こういう方に、ほどほどに、力を抜いて、というアドバイスをしますがなかなかうまくいきません。逆にこんな声が聞かれます。「ほどほどにやろうとすると怠けているような気がしてしまうのです」「手を抜いているような気がして落ち着きません」などなど。さらに一見すると余裕をもって仕事をしているように見られるので周囲から仕事を頼まれてしまいます。その時に「断れない」ということも多いです。仕事が降ってくる、仕事は自動的にやってくる、などの表現をされる方も多いです。

一方では仕事がうまくこなせなくて、ミスが多くて体調不良を起こす方がおられ、また一方ではバリバリ働いて頼まれた仕事を断れなくて疲労をためてしまう。そんな両方の適応障害の方たちがたくさん外来に来られます。後者の場合にこの過剰適応を言う言葉をお伝えすると、かなりの方が納得されるように思います。

過剰適応の対応は意外に難しく、わかりやすいのは異動や業務変更をして、業務自体が過剰にならないように工夫するというものです。これには周囲の理解が必要になります。自分自身で過剰な負担にならないように調整をすることができるようになるとよいのになといつも思います。

ある患者さんからこんな話を聞きました。40代後半の方でした。「自分はこれまで一度も依頼された仕事を断ったことがない。ところが近いうちにある業務が回ってきそうな気配がある。それは現在の自分ではかなり負担になり難しい、でもどうしたらよいかわからない」というのです。そこで綿密に作戦を立てて、依頼があった時に断る練習をしました。「自分は現在これこれの仕事を担当しており精一杯であり余裕がありません。これ以上の業務を引き受けると以前のように体調を崩してしまうかもしれません」という会話です。そして当日、ついに上司がご本人の前に来て「この仕事をやってくれないかな」と打診されたのです。彼は渾身の力を振り絞って、全エネルギーを使って練習通り「今はできない」ことを述べました。そうしたらその上司は「あ、そう」とだけ言ってくるっと踵を返していなくなったというのです。そしてその仕事はほかのメンバーに回されたという顛末。あまりのあっけなさに、ご本人は唖然として本当にびっくりしたようでした。自分はこれまで20年間以上一度も仕事を断らずに引き受けて、メンタルダウンして休業も経験したのに、こんなに簡単に断ることができるのだ、と感慨深く語っておられました。それ以来ご本人は随分とたくましくなったように感じられました。こういう経験をした方は強くなるのです。本当に印象的なエピソードです。

今回は過剰適応の話をいたしました。この話題はどんどん展開するのでまた機会があるときにお伝えいたします。

 

東谷心療内科
〒994-0049
山形県天童市南町3丁目2-16

023-664-0345