ストレスに気づかない人びと
以前に過剰適応のお話をしました。そこに関連する内容です。心身症とアレキシシミアという少し聞きなれない言葉が出てきます。
言葉から入ると面倒になるので、実際のケースについてお話をします。外来に「会社に行くと頭痛がする、あるいは腹痛、吐き気が起こる」けれども、「自宅では症状は出ない」という方が受診されす。そこで「会社に何かストレス、負担になることがあるのですね」とお尋ねをします。すると「いや、会社ではみんなよい人で仕事もそこそこ、残業も少ないし、とても良い会社です。問題はありません」「でも、なぜか会社に行くと体調が悪くなるのです」とおっしゃいます。こういう場合のことです。
ストレスがあった時に、イライラする気分が沈む、緊張して不安になる、などのこころの症状が出現する場合は、皆さんが気にしていることがあるものです。上司と相性が悪い、仕事の量が多い、仕事がすごく複雑で難しい、残業が多い、などなど多くの不満が語られます。すると対応としては、異動して苦手な上司から離れるとか、業務を変更して負担を減らすとか、交替勤務を日勤だけにしてもらうとか、具体的な対応が見えてきます。ところが、単純に言ってしまうと「ストレスはありません、体調だけ良くしてください」という希望は大変難しいのです。
このストレスに気づきにくいという傾向を「アレキシサイミア」と言います。失感情症とか失感情言語症と訳されます。自分の内面の感情、気持ちに気づきにくく、表現できない傾向ということです。しばしば疲労をためすぎてメンタル不調に陥ってしまいます。こういうメカニズムをもとにして発症している疾患を心身症と呼び、具体的には過敏性腸症候群、片頭痛、心筋梗塞などの心疾患、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、などが知られています。
外来では心身症タイプ、時分の感情に気づきにくい方の診療は骨が折れます。本人が嫌なことを自覚していないので、投薬することなど以外に面接の内容が深まらず、結果として環境調整が進みにくいのです。これまでの経過を丹念にお聞きして、どんな変化の後から体調の変化があったのか、本人に代わって考えてそれをお伝えします。「何か負担になっているのか考えてみました」「ご自分では大丈夫だと思っておられるようですが、業務の内容が変更になってから体調が悪いようですね」「場合によっては業務を以前に戻してもらいましょうか」、などと提案いたします。それでもなかなか納得していただけないことも多く、気づきは難しいものだと感じさせられます。
ストレスを受けていても気づきにくい方は。時にはストレスに強い人といわれることもあります。しかし実際にはストレスが蓄積しているのに気づかずに対応をしていないので、アルコールやギャンブルに依存したり、過食や拒食などでストレス発散をしたりして、結局はうつ病にもかかりやすいと言われています。
すっと以前に、学校は好きだと言っていた中学3年生の不登校の男の子の話を紹介しました。ずっと不登校を続けていて、ある時に「先生僕分かったんです」「僕は本当は学校が嫌いだったんです」と言えるようになってから登校を始めたというエピソードです。人間は自分の内面を表現できるようになると楽になるのです。まずは気づくことがとても大事です。
自分のことを認知するということに関してまた別の機会に述べたいと思います。